TRON SYMPOSIUM

TEPS

講演概要

ロボット技術×次世代光ネットワークで障碍者を支援する

坂村 健
INIAD(東洋大学情報連携学部)学部長/TRONイネーブルウェア研究会会長


障碍者支援には、一方的な「支援」だけでなく「働いてもらう」ために支援するという側面もある。最近のはやりで言うなら「サステナブル」。支援を上回るリターンがあるなら、一方的な持ち出しでない持続可能な「投資」と考えることも可能になる。文明社会として障碍者支援の充実は大前提だが、リターンがあれば、それだけ多くの人をより良く支援することが可能になる。

その意味で、最新の情報通信技術が可能とするロボットとネットワークは大きな可能性を持っている。

歩行移動支援として国土交通省が取り組んできたバリアフリーマップ整備のプロジェクトも、配送などの応用で自動走行ロボットが公道を行き交う時代には、ロボット移動支援のデータプラットフォームとして活用できる。

しかし同時に、この実証実験で想定しているような多くのロボットが公共空間を人と混じって行き来する時代には、子供のイタズラから不慮の事故まで、多くのトラブルが起こることが想定される。そのトラブルすべてを事前に想定することは難しく、多くのソリューションでは通信ネットワークを介して指令センターに繋がれ、トラブル時は人間の管制官が遠隔で対処に当たることになっている。

大容量で低遅延の通信ネットワークが広く普及していれば、指令センターも集中している必要もなく、すべての管制官はテレワークで自宅から担当のロボットを監視し、必要に応じてトラブル対処に介入するというワークスタイルが可能になる。これは足の不自由な障碍者でもできる──というより、車いすでの公道の様々なトラブルの経験値がむしろプラスに働く職場となるだろう。

同様に、大容量と低遅延を特長とする次世代オール光ネットワーク技術のIOWNが実現すれば、工場や土木工事や建築現場などより多くの分野でロボットの遠隔操作による「テレワーク」が可能になるだろう。さらにロボットによる物理的労働だけでなく、肉体的に外出が難しくても対人スキルなら高いという人は、ロボット×ネットワークの時代になればテレプレゼンスを利用して、接客など多くの職場で求められる人材に変わる。

少子高齢化が進む日本では、新しい技術により今まで働けなかった人が労働力になるというのは、人材確保のための重要な可能性である。本シンポジウムでは、そのような将来への期待と、そのために解決すべき課題と可能性について、ロボットとネットワークの両面から議論したいと考えている。