方山 れいこ
株式会社方角
代表取締役
「ミルオト」は、スポーツ競技中に発生する打球音や歓声、拍手などの音情報をリアルタイムにモニター上で可視化する「雰囲気応援可視化システム」である。聴覚障害のある方が生観戦でも競技の迫力や臨場感を体感できるだけでなく、試合進行をスムーズに理解できるよう補助することを目的としている。
スポーツ観戦は意外と音に依存している部分があり、どよめきや拍手などの雰囲気で試合展開を把握できることが多い。一方で聴覚障害をもつ方は、試合進行がわかりづらく、会場の盛り上がりから取り残されがちであるのが現状だ。ミルオトは、こうした課題を解決するために開発された。
本システムは、音声認識と動作認識の技術を活用した独自のAIに、卓球やバドミントンの映像と音のデータを大量に学習させることで実現している。「パンッ」「ズバン」といったオノマトペ(擬音語)を、音の強弱や発生源に合わせて瞬時にモニターへ表示することで、これまで聴覚でしか捉えられなかった「迫力」や「空気感」を視覚的に伝達する。単なる情報の補聴にとどまらず、デザインの力によって観戦体験そのものをエンターテインメントとして拡張している点に特徴がある。
開発においては、聴覚障害のある当事者や選手の声を徹底して反映させる「当事者ファースト」の姿勢を貫いている。選手が実際に感じる打球音のニュアンスと表示されるグラフィックに乖離がないよう、細部にわたる調整が行われている。
「ミルオト」は、2025年11月に開催された東京デフリンピックの卓球とバドミントン競技において、会場の大型スクリーンに投影されて活用された。本システムは、障害の有無に関わらず、誰もが同じ空間でスポーツの興奮と感動を分かち合える環境を創出することを目指している。今後は対象競技の拡大や、ライブ・コンサートなどのエンターテインメント分野への展開も視野に入れ、アクセシビリティとエンターテインメントが融合した新しい「観る」体験の社会実装を推進していきたいと考えている。